錦絵とガラス絵それぞれのタイトルと署名・印影を比べてみた。
まずタイトルの「谷風」。

E.Takino氏所蔵

江戸東京博物館所蔵
「谷」は多少の集中力はみえるが、「風」はかなり苦戦している。風は中学校の書道レベルでもバランスの取りにくい字。下書きに沿ってなぞったのだろうが、錦絵でみられるスッキリとした起筆・収筆には及ばない。ただ、遠目には似て見えるだろう。
次は春英の落款と極印。錦絵の画像の画質で拡大するとこれが精一杯。残念ながらとても見にくい。

E.Takino氏所蔵

江戸東京博物館所蔵
錦絵のほうが非常に不鮮明だが大雑把ながらも文字の形の違いはハッキリわかる。それとガラス絵の方、極印と一部重なって大きめの朱文らしいものが見る。これは錦絵の方には存在しない。ガラス絵の印文は解読できない。
最後に板元永寿堂の印。

E.Takino氏所蔵

江戸東京博物館所蔵
ここまですべて同じ画像を使っているが錦絵のこの部分は比較的鮮明に写っている。全体としてはよく写し取っている。ただ錦絵の方は山印の次が三つ巴だが、ガラス絵の方はボールが3つ、勾玉のかたちではないようだ。頂点のボールと下の2つにはそれぞれ短い線でつながっているようにも見える。やはりここでも日本の家紋文化の理解が製作者にあったのかという疑問が残る
これら3つの比較から。
1)錦絵とガラス絵は画としてはよく似ている。春英の浮世絵版画『谷風』がこのガラス絵の元絵となった可能性が考えられる。
2)複写の精密度と錦絵にない印影(らしく描かれたもの)の朱文から、製作者に日本語の知識があったかは疑問が残る。
3)ガラス絵作品に極印というのも?
錦絵をもとに作られたガラス絵を複数見る経験が必要。他のガラス絵作品を見ることができれば、完成度の比較も多少なりともできるだろう。
制作年については、額を見る限りでは春英の活動期間になると考えるのは素人見だが難しく思える。江戸末期とも言いにくいかもしれない。古くても明治以降のような気がする。


